よくあるご質問
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DEHPはその有害性がこれまで世界で最もよく調査されてきた物質であり、医療用途を含め広く使用されてきましたが、ヒトに健康問題を引き起こした事例はありません。
各国の公的なリスク評価書(EU、米国、日本)では現行使用でのリスクは認められず、現行を超える規制は必要ない、と結論付けられています。
安全性の目安となる一つの具体例;ラットを用いた経口投与試験でのLD50値(半数致死量)は30~34g/体重kgであり、その値は食塩(8~10)や砂糖(8~12)より大きく、急性毒性は極めて低いです。また、皮膚の吸収毒性や、眼や皮膚に対する刺激性も極めて低く、危険な物質ではありません。
産業技術総合研究所が発行したDEHP詳細リスク評価書(以下産総研のリスク評価書と略記)(p.92~106)によれば、屋外大気中の平均値は20ng/m3(大気1立方メートル中に10億分の20グラム)程度、水域(河川、湖沼、海域、地下水)では0.2μg/L(水1リットル中に百万分の0.2グラム)以下の濃度です。我が国の水道法では要監視項目にDEHPが記載されており、その指針値は60μg/Lであることから考えて問題となる値ではありません。
東京都(2000年)や日本食品分析センター(2001年)の分析結果では2μg/kg/日程度を摂取しているとされていますので(産総研のリスク評価書 p.6、p.183~184)、体重60kgのヒトに換算すれば0.12mg/日の摂取量になります。
げっ歯類を用いた動物実験の研究結果から無影響量(NOAEL)を求め、その量をヒトに換算するための安全係数を加味した同リスク評価書によれば、体重60kgのヒトなら1.8mg程度を毎日摂取しても問題がないとされています。
精巣毒性試験:NOAELが3.0mg/kg/日、安全係数を100とし、TDI(暫定耐容一日摂取量)は30μg/kg/日程度
器具・容器包装評価書(DEHP)2013年2月 食品安全委員会
DEHPの蒸気圧は極めて低く、常温付近での放散量は問題視する量ではありません。DEHPで可塑化した新建材を施工した室内(壁材や床材全て)の濃度は28℃下、一年間の連続測定で、当初の数ヶ月間は1μg/m3程度、その後は0.6μg/m3程度でした。厚生労働省の室内濃度指針値は120μg/m3であり、この濃度以下であれば一生涯に渡って安全であることが示されています。
因みに、20℃での蒸気圧は3.4×10-5Pa(EUのリスク評価書)であり、この温度での飽和濃度は5μg/m3程度です。従って、常温付近で室内濃度指針値(120μg/m3)を超えることはあり得ません。
DEHPなどのフタル酸エステル類は環境中での生物分解性が良好であり、生体蓄積性も無いか、又は低い物質に分類されています。河川水などの自然環境中での分解性を調べる自然浄化作用試験でも良く分解することが確かめられています。更に、生体内での代謝機構も解明されており、万が一生体内にDEHPが入っても急速に分解されて、代謝、排泄されるので生体内に蓄積することはありません。
但し、淡水底質などの嫌気的な条件下では、水中に比べて分解速度は遅くなりますが、底質中のDEHPは水中に溶解・拡散移行して分解されます。従って、生態リスクは懸念されるレベルではない、と結論付けられています(製品評価技術基盤機構:DEHPのリスク管理の現状と今後のあり方:p.6)。
1980年代はじめに極めて高濃度のDEHPをラットに投与すると肝臓に腫瘍を引き起こすことが報告されましたが、その後の研究で肝腫瘍は、げっ歯類に特有のメカニズムで起きることが明らかになりました。これを受けIARC(国際がん研究機関)は2000年にヒトへの発がん性はないとして従来の「2B」(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)を「3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に変更しました。更に、IARCは2011年2月の会議で再びDEHPを「2B」に戻すと決定しましたが、その理由はヒトにおける新たな証拠が見つかったためではなく、げっ歯類における発がん性のメカニズムや疫学研究のために更なる調査研究が必要である、と判断したためであります。可塑剤工業会は再見直しの理由に挙げられた文献を詳細に調査し、DEHPの発がん性には従来通りに種差がある、と判断しております。 グループ「2B」には、コーヒーや酢漬け野菜、携帯電話等も分類されています。
DEHPを含む各種のフタル酸エステル類は、政府が行った試験により、内分泌かく乱作用の懸念は否定されています。また、環境には、ヒトや動物由来のホルモンが検出されており、それらは環境ホルモンとして疑われた物質とは比べものにならないほど強い作用力を有することが判っています。
かつて、一部のフタル酸エステルが試験管レベルで極く弱い女性ホルモン(エストロジェン)様作用を示した、との報告があったことから、環境省が大がかりな調査を行いました。その際、「環境ホルモン戦略計画SPEED’98:内分泌かく乱作用を有すると疑われる化学物質」に多くの可塑剤がリストアップされました。可塑剤工業会では各種可塑剤について試験管レベル及び実際の動物を用いた試験を行い、女性ホルモン様作用を示さないことを確認しました。
その後2003年6月に環境省は9種類の可塑剤について、女性ホルモン様作用だけでなく、男性ホルモン様作用や甲状腺ホルモン様作用まで詳細に試験を行い、ヒトにも生態系にも内分泌かく乱作用が認められない(環境ホルモンではない)とする研究結果を発表しています。
げっ歯類であるラットやマウスでは生殖毒性や精巣毒性が認められましたが、霊長類であるマーモセット(キヌザル)やカニクイザルでは精巣毒性は認められていませんし、生殖毒性も霊長類では発現しないと考えられています。
げっ歯類におけるこれまでの研究で、雌雄のマウスにDEHPを餌に混ぜて与え、同一ペアによる複数回の交配を行った結果144mg/kg/day(これは、体重60kgなら毎日8.6gも摂取することに相当します。前記Q3.で示したとおり、摂取量は0.12mg/日程度とされますので、その7万倍以上です)以上の投与で、不妊およびペア当たりの生存児数の低下が認められました。精巣毒性については、ラットやマウスに高濃度のDEHPを投与すると精巣の小型化などの影響があること、特に、幼若期には影響を受けやすいことも知られていました。
これまでに実施されたラットとマーモセットのデータではげっ歯類と霊長類とでDEHPの体内動態及び代謝メカニズムに大きな種差のあることが示されており、げっ歯類で得られたデータをヒトに適用できるとは考えられません。即ち、霊長類のマーモセットではMEHP(モノ-2-エチルヘキシルフタレート:DEHPの最初の代謝物)及びその代謝物をグルクロン酸抱合体として無毒化して速やかに排泄することがげっ歯類と大きく異なる点として知られており、ヒトの代謝物の殆どが抱合体である、との研究結果から、ラットとは異なった代謝機構を有すると考えられます。現に、これまでに公表された各国の評価書でも種差のあることが認められています。(EUのリスク評価書やCSTEEの評価、米国のCERHRの評価、また日本の産総研の評価文書)
前記した産総研のリスク評価書はヒト及び生態に対して「現状においてリスクは懸念されるレベルではない」と結論付けております。この評価を基にして、製品評価技術基盤機構は、≪DEHPのリスク管理の現状と今後のあり方≫の中で「現状の管理を継続する必要はあるものの、これ以上の強化は必要なく、また法規制等についてもこれ以上の追加は必要ない、と考える」と表明しています。
これまでに公表された研究論文の中には様々なものがあり、質問にあるような様々な異常発現をフタル酸エステル類に関連付けるようとするものも含まれています。しかしながら、このような論文を精査すると、このような研究には必須となる交絡因子(被験者の病理学的な背景や、居住空間(温熱環境や、カビ、ダニを含め他のアレルゲン物質の存在など)、食生活や生活行動など等)についてデータが欠落、分析がなされていないという問題の他、実験手法や論理にも欠陥があり再現性の検証ができないなど、その結論に科学的な根拠が認められるものがありません。
DEHPはこれまであらゆる角度から調査研究されてきた極めて稀な化学物質であり、これら様々な現象との因果関係は何ら証明されておりません。DEHPを中心としたフタル酸エステル類は60年以上に渡って色々な用途に使用されてきましたが、それによってヒトが有害な影響を受けたというケースは1件も報告されていません。