可塑剤とは?
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可塑剤は化学構造から言えばエステル化合物です。エステルは酸とアルコールから水が脱離して得られます。従いまして、酸の種類、アルコールの種類の掛け算だけエステル化合物の数はあります。
可塑剤の原料となる酸は、フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、リン酸、クエン酸、セバシン酸等があります。可塑剤の原料となるアルコールは、炭素数1のメタノール、炭素数2のエタノール、炭素数3のプロパノール、・・・・、とあります。アルコールの化学構造で見ると、炭素の連鎖からなる直鎖状、炭素の連鎖に分岐がある分枝状、組成からは、単一の化学物質からなる組成が唯一つの単一物、複数のアルコール成分からなる混合物という見方もあります。
代表的なフタル酸エステルであるDEHP可塑剤は、フタル酸の化学構造中のベンゼン環の隣り合った炭素にそれぞれ一つずつ付いている二つのカルボキシル基と炭素数8の分岐アルコールである2-エチル-1-ヘキサノール(6つの直鎖の炭素とそれに2つの炭素の枝のあるアルコール)2分子とが反応して出来上がります。フタル酸にはo-(オルソ)、i-(イソ)、t-(テレ)の3つの構造異性体がありますが、DEHPはo-フタル酸を用いて合成されます。可塑剤として使用されてきた従来のフタル酸エステルのほとんどは酸としてo-フタル酸を用いたエステル化合物です。
可塑剤は、英語ではplasticizersとされ、中国語では増塑剤と言われます。Plasticsはプラスチック全体をさします。PlasticはPlastic crayのように、塑性粘度の塑性を意味します。塑性流動や塑性変形を生じさせる添加剤と言う意味もあるのかもしれません。そういう意味では流石に漢字の国、中国の「増塑剤」は物の理を得ていると言えそうです。塑性流動はBingham Plasticとも言い、非ニュートン流体の一つです。降伏応力を持ちます。即ち、降伏応力を超えた応力を加えることにより流動を開始する流体のことを指します。日本語の「可塑剤」は、この降伏応力をもたらし、その大きさを変えるという広い意味での効果を持ち、流動性をコントロールする作用を持つとも言えるかもしれません。
可塑化のメカニズムは、未だに、まことしやかなポンチ絵で解説されていますが、何十年も前の描像が今も大手を振ってまかり通っている感があります。ガラス転移現象を支配する今風の分子論と共に可塑化の分子論もあるはずですが、ないのでしょうか?
可塑化の最も視覚的な効果を示す図を上に示します。これは、可塑剤(DEHP)の添加量を左から順に0、30、50wt%とした時の軟質ポリ塩化ビニル(PVC)シートの動的粘弾性の温度依存性を示しています。縦軸は弾性率(貯蔵弾性率(黒〇)、損失弾性率(赤〇))、損失正接(△)、横軸は温度です。図中の⚫️は25℃における各試料の貯蔵弾性率を示しています。左から順に弾性率がガラス状、皮革状、ゴム状へと低下していることが判ります。このように可塑剤の添加量の増加によって弾性率が次第に低下します。材料に柔らかさを提供しているのです。
基材であるポリ塩化ビニルが可塑剤の添加により硬いものから柔らかいものに変わります。つまり一種類のプラスチックで様々な硬さの(柔らかさの)成形品が得られることになります。可塑剤がPVCを守備範囲の広い材料にしていると言っても良いのではないでしょうか?これが可塑剤の効用の一つです。
物性値では説明できない可塑化PVCについて一例をご紹介しましょう。ある成形加工メーカーの技術者がある電気電子部品をDEHPで可塑化したPVCで成形していました。彼はその成形品をある家電メーカーに納品していました。欧州ではDEHPが使えなくなると言うので、DEHP以外の可塑剤で可塑化したPVCで同じ部品を成形し、従来の品質検査を受けました。しかし、八方手を尽くしても合格に至りませんでした。他では得られない実用性能がDEHPで可塑化されたポリ塩化ビニルにはあるようです。DEHPってすごい!
フタル酸エステルはその工業的生産が開始されて以来約60年。その間、可塑剤用途を中心に様々な用途で工業的に使いこなされ、そして、消費者製品を中心に多方面で便利に安全に用いられて参りました。これからもまだまだ続きそうです。
可塑剤には数多くの種類があります。その中で一般的に使用されている可塑剤についてその特徴と用途をまとめました。それぞれに特徴があり、その用途は多岐にわたっており、暮らしの様々なところで役立っています。
■フタル酸エステル
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名称/略号 | 分子量 | 沸点* (℃) |
水への溶解性** (mg/L) |
特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
フタル酸ジメチル DMP |
194 | 282 | 430 | 相溶性良好 | ニトロセルロース樹脂用可塑剤および有機過酸化物の希釈剤 |
フタル酸ジエチル DEP |
222 | 298 | 1500 | 相溶性良好 | 酢酸セルロース・メタクリル酸・酢酸ビニル・ポリスチレンの希釈剤 |
フタル酸ジブチル DBP |
278 | 339 | 10(25℃) | 相溶性、加工性、耐油性良好 | 塗料、接着性、印刷インキ、セラミックス、オレフィン用重合触媒 |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル DEHP |
390 | 386 | 0.003 | 相溶性、可塑化効率、耐揮発性、低温特性良好 | 床材、壁紙、一般フィルム、シート等 |
フタル酸ジイソノニル DINP |
419 | 403 | 0.0006 | 耐寒性、耐揮発性、ペーストゾル粘度安定性良好 | フィルム、シート、高級レザー、電線 |
フタル酸ジイソデシル DIDP |
446 | 420 | 0.0002 | 低揮発性、耐熱老化性良好 | 電線、車両及び家具用レザー、シャワーカーテン、床材等 |
フタル酸ブチルベンジル BBP |
312 | 370 | 2.7 | 相溶性、耐熱・耐候性良好 | 床壁用タイル、塗料用、ペースト用、人造皮革・室内装飾品用 |
*常圧 **20℃
■フタル酸エステル以外
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名称/略号 | 分子量 | 沸点* (℃) |
水への溶解性** (mg/L) |
特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル DOA |
371 | 335 | 0.0032 (22℃) |
耐寒性、プラスチゾルの粘度安定性良好 | 塩ビシート、ゴム加工、潤滑油 |
アジピン酸ジイソノニル DINA |
427 | >250 | 0.00022 | 耐寒性、揮発性、耐熱性良好 | 食品包装用フィルム、接着剤の調整剤 |
アゼライン酸ジオクチル DOZ |
413 | 220-245 (0.53kPa) |
不溶 | 潤滑油 | フィルムおよび合成ゴムの耐寒性可塑剤、合成潤滑油 |
セバシン酸ジオクチル DOS |
427 | 376 | 不溶 | 耐寒性良好 | 合成潤滑油、グリース、フィルムおよび合成ゴム等の耐寒性可塑剤 |
リン酸トリクレシル TCP |
368 | 420 | 0.1 (25℃) |
耐寒性良好 | 農業用フィルム、フェノール・エポキシ樹脂、各種エンプラ等の難燃性可塑剤、難燃性同油、極圧添加剤 |
アセチルクエン酸トリブチル ATBC |
402 | 200 (4torr) |
5 | 耐熱性、恒温絶縁性、潤滑性、極圧性良好 | 食品包装用フィルム、ペーストゾル、潤滑油 |
トリメリットトリオクチル TOTM |
547 | 414 | 0.00039 (25℃) |
相溶性、加工性良好 | 耐熱電線被覆材、自動車内装材 |
*常圧 **20℃