可塑剤の規制動向について
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世界の主要な国、地域の可塑剤に対する法規制の最新動向をお示します。
1)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)
化審法は1973年に制定した化学物質による環境の汚染を防止するために制定された法律です。2011年の改正では、リスク管理の観点から動植物への影響に着目した審査・規制制度や環境中への放出可能性を考慮した審査制度が新たに導入されました。可塑剤では2011年にDEHPが優先評価化学物質に指定され、更に2021年3月にはリスク評価(一次)評価Ⅰから評価Ⅱへ移行しました1)。2026年以降(延期となる可能性あり)、当局によるリスク評価を経て第二種特定化学物質か一般化学物質に差戻しかが審議される計画となっております。
2)化学物質排出把握管理促進法(化管法)
化管法は2001年に制定した事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進する法律で、化学物質排出・移動量届出(PRTR)制度と安全データシート(SDS)制度を柱としています。SDS制度は事業者が対象化学物質またはそれを含有する製品を他の事業者に提供する際、その化学物質の性状や安全性、取り扱いに関する情報をSDSとして事前に提供することを義務付けるとともに、ラベルによる表示に努めるというものです。 2021年の化管法改正では、可塑剤で第一種指定化学物質に既に指定されているDBP、DEHPに加え、2023年4月1日よりアジピン酸ジー2―エチルヘキシル(DOA)が第一種指定化学物質に再指定となりました。
3)労働安全衛生法(安衛法)
化管法、毒物及び劇物取締法(毒劇法)とならび、SDS 三法である労働安全衛生法(安衛法)が2022年2月に改正されました。人健康で所定以上の政府分類となっている製品を対象に2025年までに2000物質程度が指定物質に追加される内容2)で、可塑剤ではTCP、DINP、DIDP等が指定化学物質として追加対象となっております。
4)食品衛生法
食品衛生法では、DBP、DEHP、BBP、DINP、DIDP、DNOPの6種フタル酸エステルが世界で初めて玩具・育児製品用途向けに0.1重量%以上の配合が使用制限となり、その後欧米や中国でも同様の規制となりました。また、2018年6月に「食品用器具・容器包装のPL(ポジティブリスト)制度」が改正され、合成樹脂製の食品用器具・容器包装について安全性を評価した物質のみを使用可能とするPLを制定・改編し、2025年6月1日以降、管理しようとするものです。可塑剤に関しては、旧塩ビ食品衛生協議会(JHPA)で自主的に使用が許可された製品の中で使用実績のある可塑剤が引き続き、PLに収載されることが決まりました3)(DEHPでは引き続き油脂及び脂肪性食品に接触する部分は使用不可)。2025年6月よりPL制度が正式に施行開始となります4)。
1) http://www.kasozai.gr.jp/book/
2) https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/001043125.pdf
3) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05148.html
4) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36419.html
フタル酸エステル系の使用規制が最も厳しいのはEUです。EUではCLP規則等化学物質に関する主な法律はREACH、RoHS、PIMです。順にそれらの概要をお話しします。
CLPについて
CLPはRegulation on Classification, Labelling and Packaging of substances and mixtures(物質やそれらの混合物の分類、ラベリング、そして包装)の略で、欧州版GHS(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals(化学物質の分類やラベリングについてのグローバルな調和システム))です。化学物質やその混合物をハザード(“毒性とリスクとは”の項参照)に従って分類し、その区分に応じてラベルを製品に張り付けることが義務付けされています。例えば、DEHPは生殖毒性のカテゴリーで区分1Bに分類されています。最近ハザードに新たなカテゴリーである内分泌かく乱性が組み込まれ(2023年㋃)、DEHP、DBP、BBP、DIBPがこの範疇に入りました。種々のハザードに対する分類はGHS分類の有害性クラスをご参照ください。ここでは、生殖毒性物質の有害性区分(CLP、GHSによる)を、一例として示しておきます。
区分1 :ヒトに対して生殖毒性があると知られている、あるいはあると考えられる物質。
区分1A:ヒトに対して生殖毒性があると知られている物質。
区分1B:ヒトに対して生殖毒性があると考えられる物質。
区分2 :ヒトに対して生殖毒性が疑われる物質。
可塑剤工業会では1994年頃から今日まで、可塑剤の安全性について科学的論拠に基づいて議論をしてきました。特に当時巻き起こったフタル酸シンドロームがマスコミ等でも話題になったことがその背景にあります。フタル酸シンドロームとはDBPやDEHPが雄の生殖毒性を引き起こすというものでした。可塑剤工業会では主にDEHPの生殖毒性を種差に基づいて今日まで否定してきました。その詳細については、“可塑剤の安全性―生殖毒性”の項をご覧ください。
REACHについて
REACHとはRegistration, Evaluation, Authorisation, Restriction and Chemicalsの略で、登録、評価、認可、制限、そして化学物質のEU域内での規制(Regulation)です。Regulation は、EU加盟国すべてに効力があります。REACHは日本の化審法に相当します。製造業等の事業者が使用している、或いは使用を予定している化学物質を使用量、用途、安全性等を記載して登録します。それに続いて、各々の化学物質のハザードに応じてSVHC(substances of very high concern(高懸念物質))、認可対象物質(認可申請をし、認可が認められなければ、申請後2年で工業製品の製造に使用できなくなります。認められれば、ある一定期間製造使用が認められ、その一定期間を経過すると、再度認可申請することなります。これらを繰り返して行き、最後にはその化学物質の製造使用がなくなる言うシナリオです。)、また、リスク評価を実施してリスクがあれば制限物質(ある閾値を超えての使用は禁止されます)として指定されます。REACHはDirectorate-General for Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs(small and medium sized enterprises)
が起案した規制で、代替による欧州の成長を目指しています。
可塑剤、フタル酸エステルに目を転じてみましょう。REACHに登録されているフタル酸エステルは2023年時点で32種類で、その内13物質(DEHP、DBP、BBP、DIBPを含む)が認可対象物質に、7物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP、DINP、DIDP、DNOP)が制限物質に指定されています。一方で、現在進行中のREACHの改定とも連動して化学物質の管理を簡素化するために化学物質のグループ化が進んでします。化学構造や性質が似通っている化学物質をグループ化し、グループごとにリスク評価や管理をして行く準備が進んでいます。
注目されていましたDEHPの認可申請(消費者製品等を対象)は申請後10年と言う長きの申請活動の末に、2023年3月に取り下げと言う残念な結末を迎えました。
RoHSについて
RoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment(電気電子製品におけるハザード物質の使用制限))では、電気電子製品について、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、六価クロム(Cr+6)、ポリ臭化ビフェニル (PBBs)、ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDEs)が実質上禁止されました。それに続いて、フタル酸エステル4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)とポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)が2015年に追加(許容最大濃度は0.1wt%)されました(2015年3月決定)。特にフタル酸エステルについては、廃棄の段階での労働者ばく露が議論の焦点になったようです。
2010年前後からRoHSでフタル酸エステルが議論され始めて以降、許容最大濃度である0.1wt%が話題に上り、お問い合わせも急増しました。そこで、可塑剤工業会では、可塑化した軟質PVCのシートと各種プラスチックのシートとを重ね合わせた系で、可塑剤の移行性の実験を実施しました。結果の詳細については、“可塑剤工業会のHPにあります、フタル酸エステルの移行性について”、をご参照ください。
PIMについて
食品用器具・容器包装の安全性を規制しているPIM(Plastic Implementation Measure(プラスチック施行規則))では、フタル酸エステル類はこの用途で使用が認められるPL(Positive List)に収載されており、食品用器具・容器包装用途で使用可能です。規制の基準としては、溶出量を対象とするのか、添加量を対象とするのかが考えられますが、欧州のこの規制では溶出量が規制の基準となっており、水等の溶媒に所定時間、所定温度で溶出してくる化学物質の量で使用できるか否かを定めています。
この規則の16次改正でグループ化によりDEHP、DBP、BBP、DIBPについては累積ばく露によるリスク評価を実施することが提案され、2023年3月に提案通りの内容で発効しました。
欧州食品接触材料(Food Contact Materials)規制は現在(2023年)改正中です。
玩具指令
従来の玩具指令TSD(Toy Safety Directive 2009/48/EC )は、特に有害性化学物質のリスクから子供たちを高レベルで守り切れない数々の不十分な点が見受けられるとして、現在改訂中です。これまでの玩具指令では、CMRが対象となっていましたが、禁止物質の対象は以下の通り大幅に拡大します。
・発がん性、生殖細胞変異原性又は生殖毒性 (CMR) カテゴリー1A、1B又は2
・内分泌かく乱性状カテゴリー1又は2
・特定標的臓器毒性カテゴリー1、単回ばく露又は反復ばく露の何れかにおいて
・呼吸器感作性カテゴリー1
改定に際して、製品の安全性を示すデジタル方式による製品パスポートを採用します。これは製造者が関連法令をどのように遵守しているかを詳しく記述したものです。これによって市場の監視が強化され域内外での境界線で税関検査が強化されます。また、QRコードなどによって消費者が安全情報にアクセスし易くできることが期待されます。今後、このような方式が世界に拡散する可能性があります。
なお別途、フタル酸エステルに対する玩具への使用制限が、REACHのEntry51(DBP、BBP、DEHP)、52(DINP、DIDP、DNOP)で規定されてます。2018年の改定で、Entry51については、対象が玩具から、玩具・育児用品を含む消費者製品に拡大しました。これらの制限が新たな玩具指令に一括的に盛り込まれるのか玩具のみが盛り込まれるのかどうかは今のところ不明です。
1)TSCA(米国有害物質規制法)
TSCAは1976年に発効したヒトの健康または環境にリスクを及ぼす化学物質を規制する法律です。環境保護庁(EPA)が新規化学物質の規制、既存化学物質の評価、情報の公開等を行います。化学物質を「TSCAインベントリー」と呼ばれるリストで管理しており、現在8万物質以上が収載されています。
TSCA は2016年に改正され、リスク評価を行う仕組みがあらたに盛り込まれました。
2016年12月にリスク評価の対象として最初に選定された10の化学物質が公表されました。
2019 年8 月、EPAはTSCAに基づき20物質をリスク評価の対象となる高優先物質として指定することを提案しましたが、その中にDBP、BBP、DCHP、DEHP、DIBPが含まれました。可塑剤工業会はこれらフタル酸エステルは安全であるといった科学的根拠を意見書として提出しました。
2019年12月に、DBP、BBP、DEHP、DIBP、DCHPがTSCAの高優先候補化学物質と決定されました。企業から依頼のあったDINP、DIDPと共に、今後、最短3年間にわたるリスク評価手続きを踏んだ後、これら物質が現在の使用条件下で人の健康や環境に悪影響をもたらすか否かが判断されます。場合によっては、法的に使用制限が課せられることになります。
2023 年 5 月、EPA は、パブリックコメントと EPA 科学諮問委員会(SACC) による相互審査のために、リスク評価中のフタル酸エステル類に関する累積リスク評価の枠組みと手法を公表しました。※1 フタル酸エステルに関しては、DIDP、DINPについては、2024年夏ごろにリスク評価の結果案公表される予定です。また、DEHP以下5フタル酸エステルについては、2025米国会計年度(2024年10月~2025年9月)内に個別のリスク評価結果案と累積リスク評価結果案が公表される予定になっています。
※1
https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-03/fy-2025-congressional-justification-all-tabs.pdf
2)玩具・育児用品
米国ではCPSIA(Consumer Product Safety Improvement Act:消費者製品安全性改善法)により、フタル酸エステルが規制されています。
CPSC(米国消費者製品安全委員会)は、12歳以下を対象とした玩具及び3歳以下を対象とした育児用品の8 種フタレート( DEHP、DBP、BBP、DIBP、DINP、DPENP、DHEXP、DCHP)を使用制限(閾値0.1wt%)する規則を制定しました。DINPは当初、3歳以下の育児用品のみが対象でしたが、2014年にDEHPと同レベルの12歳以下を対象とした玩具も暫定的な制限対象となり、2018年に恒久的な制限対象に変わりました。また、同年には、DIDP及びDNOPは制限が撤廃となりました。
2017年12月にテキサス製造業協会(The Texas Association of Manufac-turers)などはCPSCのフタル酸エステル最終規則を見直すよう裁判所に申し立てを行いました。2021年3月に裁判所は、2つの手続き上の問題を指摘し、最終規則を再検討するようCPSCに差し戻しました。2022年11月にCPSCは、CPSC のフタル酸エステル類の最終規則に関し、裁判所が指摘した 2 つの手続き上の不備を委員会が解決したことを発表し、連邦官報通知公表の提案通り採択されました。※2
これに対して米国化学評議会 (ACC)高フタル酸エステル類委員会(HPP)は、玩具における DINP の制限に関する最終決議を発行するためのCPSCの採択について、「「CPSC は高フタル酸エステル DINP に関する科学を無視し続けている」おもちゃや育児用品のDINP制限を維持し続ける科学的根拠はない」 との声明を発表しています。※3
3)食品接触材料
一部のフタル酸エステルは、食品包装や、接着剤、潤滑剤、シーリング剤の成分など、食品と接触する用途に使用されることがあります。
米国食品医薬品局(FDA)は、食品接触材料としてポジティブリストに収載されているフタレートに関し、環境保護団体による食品接触用フタレート28種の消除請願について、同用途に安全でないことが立証されていないことを根拠に却下しました。一方、食品接触用フタレート25種について使用実態がないことを根拠にリストより消除し、食品接触用フタレート8種(DEHP、DINP、DIDP及び DCHPなど)について使用実態情報提供の呼びかけを公表しました。
FDAは現在、提出された23,900件以上のコメントを精査しており、この情報をもとに、フタル酸エステル類の食品接触用途として許可されている食品への暴露量推定値および安全性評価を更新する可能性について検討を進めています。※4
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優先制御化学品
中国版RoHS
玩具・食品接触材料規制